2008年1月号

- レディオヘッド 「ロックの未来はレディオヘッドにあり」。そんな風に信じている人は、全世界に何百万と存在する。それぐらい、レディオヘッドというのは“ロックの歴史と未来”に対する責任を世界から背負わされた存在だったりする。思えばちょうど10年前。彼らが“最高傑作”の誉れ高い名作『OKコンピューター』を出した頃から、それははじまっていた。その一つ前のこれまた代表作『ザ・ベンズ』で、ニルヴァーナなき後のギター・オリエンテッドなロックの完成型を築き上げた彼らは、ドラマティックな曲展開と、自己の内面や社会の狂気にシリアスにメスを入れる洞察力を混ぜ合わせ、ギター・ロック・フォーマットの超越を敢行。その結果、彼らの到達点に及ぶものは誰もなく、レディオヘッドはグランジやブリット・ポップ崩壊後の90年代のさまよえるロック界の寵児となる。そして2000年には、エレクトロニカを大胆に導入した衝撃作『キッドA』を発表。「これぞ 21世紀のロック!」とその神格化は止むことなく進行した。それ以降も、基本的にレディオヘッドはロック界において、もっとも尊敬を受けるに値する大物であることには変わりはない。ただしかし、“2000年代ロックを象徴する存在” として「レディオヘッド」と言う名が真っ先にあがるか、と言えば、その答は残念ながら「NO」。時代はレディオヘッドが築いた、テクノロジーと共生し複雑化する方法論には進まず、むしろホワイト・ストライプスやストロークス、アークティック・モンキーズらが押し進めるように“知恵を駆使した人力ロックンロールへの回帰”が主流となった。そんな時代に前世代からの巨人、レディオヘッドがどんな答を出してくるか。楽しみだった。
- AC/DC ちょっと前までは「メタルの中で日本で人気がイマイチなバンド」。そんな風に語る人が多かったような気がする。「やっぱ、ギター・ソロじゃなく、リフ主体のロックンロールだからな」。メタル界隈の人からそんな話が漏れてくるたびに「おいおい、勘弁してくれよ!」と、言いたくなったAC/DC のファンは非常に多いはずだ。そりゃ、そうだ。そんな次元でAC/DCを語ること自体が大きな間違いなのだから。「全世界2,000万枚を売りあげた『バック・イン・ブラック』はロック史上最高のヒット作」「今でも旧譜は年間で 100万枚は売れている」「栄誉ある“ロックの殿堂”にもスンナリと選出されている」。そんな凄い事実がアッサリと存在するのは、彼らが“メタル界のスーパー・バンド”だからではない。その理由は、彼らが紡ぎ出す、鋼の回転のような、硬質でギザギザのエッジに満ちたリフが、ハードロックだの、パンクだの、グランジだの、ガレージだのといった一切のジャンルや世代の壁を超えて普遍的に響くからである。実際、1970 年代半ばのデビュー当時、彼らはイギリスでパンクとして売られそうになっているし、彼らの初期のアルバムを手掛けたギターのヤング兄弟の兄でもあるジョージは、60年代にガレージ系モッズ・バンドでカルトな人気を博した人でもあるし。“速いブルース・ロック”という意味ではルーツはほとんどパブロックと同じだし、ニルヴァーナのカート・コバーンは『バック・イン・ブラック』を「欠点のない最高のロック・アルバム」と激賞し、ジェットは「オーストラリアでAC/DC聴かないヤツなんかいない」とまで語っている・・・。
- スウィートボックス 有名なクラシック曲を大胆にサンプリングし、新感覚のポップスを生み出してきたスウィートボックス。そのアイディア溢れる音楽性で唯一無二の個性を放つ彼らの、究極のベスト盤が完成した。2005年にも一度ベスト盤がリリースされているが、今回はなんとレーベル移籍前の楽曲も完全網羅。トータル・セールス400万枚超の魅力を余すところなく堪能できる、全45曲の豪華セレクションとなっている。スウィートボックスの起源は1995年に遡る。エイス・オブ・ベイスやバナナラマといった人気アーティストを手掛けていた音楽プロデューサーのGEOが立ち上げたプロジェクトだったが、当初は特定のヴォーカリストはおかず、ゲスト・ヴォーカルを招いて最新のクラブ・ミュージックをリリースするスタイルだった。そんなスウィートボックスに転機が訪れたのは1997年。初代固定ヴォーカリストとしてティナ・ハリスが加入し、リリースした楽曲「エヴリシング・イズ・ゴナ・ビー・オールライト」が世界各国で大ヒットしたのだ。この曲はバッハの名曲『G線上のアリア』にヒップホップを融合した革新的な作品で、これ以降“クラシックとポップスの融合”という試みがスウィートボックスの普遍的なテーマとなる。もちろん日本でも人気を博し、アルバムは国内だけで65万枚のセールスを上げた。
- バウワウ×オマリオン アメリカのショウビズの世界では、ティーン・アイドルの活躍とその後の成長は“内容”に直結している。日本の場合に照らし合わせてみると、アイドルが、その後ひとかどの表現者として太く育っていくことは正直多くはないだろう。その点、アメリカのR&Bやヒップホップのシーンを知るにつけ、その懐の深さと逞しさがなにより意味深い。バウワウとオマリオンという、現在のトップをゆく二人は、現役のアイドルであり、そのまま、一級のアーティストでありエンターテイナーである。このふたりがコラボ・アルバムを出したのだから騒ぎにならないわけがない。プランのアナウンスは何年も前より伝わっていた。互いに親友と呼び合う二人は、たびたびアルバム制作の可能性をにおわせていたのだ。企画の盛り上がりの直接的なきっかけは、二人が参加した“Scream Tour”だ。スクリーム=叫び、というタイトルがついているように、このツアーは女の子たちの歓声で埋め尽くされる。出演するのは、バウワウやオマリオン、ボビー・バレンティノら、現在のR&B/ ヒップホップ・シーンを席巻しているアイドル・スターたちである。この毎夏30公演規模で開催されるステージの 2005年版のDVDにも、バウワウやオマリオンはメインでフィーチャーされている。
- MARIO トップアーティストにのぼりつめたマリオを思うにつけ、シアラとともにやってきた、あの来日ショウケースでがもう懐かしく思い出される。全米シングル・チャートのトップに実に9週連続で居座った「レット・ミー・ラヴ・ユー」を含むセカンド『ターニング・ポイント』の大ヒットによって、マリオは若きR&Bスターの顔になった。当時18歳ということでも注目されたが、あれからもう随分時間がたっているのだ。その後、映画『フリーダム・ライダース』への出演など、マリオはスター俳優としての風格も備えていったが、その間R&Bシーンは“若手”たちの台頭がますます強まっていった。そこで、随分待たされたのだが、ようやく真打ちが登場してきたというわけだ。マリオのサード・アルバム『GO』が遂にリリースである。延期に継ぐ延期でかなりじらされた。しかし出揃った曲、曲順にしてもこれ以上ないほど練り上げられた仕上がりになっている。今回はマリオ自身も4曲のプロダクションを手掛けている他、参加クリエイター陣は実に的を射た面子だ。オーク、ポロウ・ダ・ドン、ジャスパー・キャメロンといった最先端を行く顔ぶれをはじめ、タイトル曲の「GO」はファレルが手掛け、ティンバランド、エイコン、ショーン・ギャレットとのコラボレーションもあり豪華。もちろん、良きライバル、Ne-Yoもスターゲイトと共作で参加。シングルで先行し、この夏にヒットしていた「ハウ・ドゥ・アイ・ブリーズ」がそれだ。美しいメロディと先を行くプロダクションの見事な融合。それがこれほどバランスよく展開しているアルバムは本当に稀だ。そして、成長著しいマリオの歌がなによりこの作品の説得力を格別なものにしている。マリオが生まれた1986年にヒットした、キース・スウェットの「ライト・アンド・ア・ロング・ウェイ」のカヴァーから聴こえてくるディープな歌唱は、そんなあらわれのひとつだろう。07年でも最も重要なメジャーR&B作品の登場だ。
- メアリー・J.ブライジ 数ヶ月前に来日し、大規模イヴェント“3 Great American Voices”でキャロル・キング、ファーギーとともに素晴らしいパフォーマンスを披露してくれたメアリー・J.ブライジ。“クイーン・オブ・ヒップホップ・ソウル”との異名もすっかり定着した彼女が、ステージの興奮もさめやらぬ絶妙のタイミングで通算8作目にあたるニュー・アルバム『グロウイング・ペインズ』をドロップしてくれた。プロデューサーにロドニー・ジャーキンス、ショーン・ギャレット、ネプチューンズ、スターゲイト、マーク・ロンソンら、現在のR&Bシーンを代表するクリエイターを総結集させた、気合いの入りまくった作品だ。「このアルバムは私の過去の人生の追体験ではなく、今自分のいる位置が基本になっているの。(中略)人間である限り完璧じゃないわね。だから、私には growing pains(成長期の悩み、苦しみ)があると言えるのよ。それを受け入れながら生きているの」という本人の言葉どおり、過去のアルバムをはるかに上回る厚みが全編に貫かれている。たとえばいい例が、Jazze Phaとトリッキー・スチュワートのプロデュースによるファースト・シングル「Just Fine」。すでに大ブレイク中だからチェック済みの人も少なくないはずだが、斬新なビートを軽々と乗りこなすスキルが圧倒的だ。そしてもうひとつの注目ポイントが、Neffuが手がけた「Work That」。ピアノ・フレーズと極太ビートが拮抗するスリリングなこの曲は、iPod + iTunesのCMに起用されて大きな話題を呼んでいるのだ。もちろんCMには本人もシルエット姿で登場しているし、これまでの実績を超えた世界規模での大成功作となることは間違いなし。
- チンギー “エイメリーをフィーチャーしたリード・シングル「フライ・ライク・ミー」の密度を体験した時点で、まず間違いなくノックアウトされるはず。重厚でダークなビートと絶妙の相性を見せる「ヘイト・イット・オア・ラヴ・イット」や「チェック・マイ・スワグ」、リュダクリスとボビー・ヴァレンティノを招いた「ギミ・ダット」、ステフ・ジョーンズと絡む「オール・アボード(ライド・イット)」、アンソニー・ハミルトンとともにメロウなムードを演出する「ハウ・ウィ・フィール」などヴァラエティも豊かだし、チンギーの4作目『ヘイト・イット・オア・ラヴ・イット』は最高傑作と呼ぶにふさわしいクオリティだ。なにが評価できるかって、ティンバランド、カニエ・ウェストら強者プロデューサー陣の強烈な個性に翻弄されることなく、しかもこれまで以上に自分らしさをアピールしている点。キャリアを生かし、ネクスト・レヴェルに到達しているのだ。
- マクフライ マクフライのベスト・アルバムが発売される。デビューから3年半。ずいぶん早いベスト盤のリリースのような気もする。しかし、彼らが発表した3枚のオリジナル・アルバムと数多くのシングルのうち、実にアルバム2枚とシングル7枚が全英No.1に輝いている。平均年齢がまだ20歳ちょっとの彼らのことをアイドル・バンドを見る向きもあるだろう。それはそうとしても、メイン・ソングライターであるギター&ヴォーカルのトム・フレッチャーの才能を認めないわけにはいかない。UKロックの伝統を受け継ぐポップなメロディ。特にクイーンからの影響は絶大だ。レーベル・メイトのバステッドに提供した曲も加えれば、なんと10曲ものNo.1ヒットをたった3年半の間に生み出しているのだから、この才能は本物だ。だからこその『グレイテスト・ヒッツ』。名曲はまだまだ生まれるだろう。だからここらで一区切り。僕らは新たな名曲の誕生をここで待っていよう。